プログラム概要

現在の問題点

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染が引き起こす後天性免疫不全症候群(AIDS)は、医療技術や抗ウイルス薬の開発が進んでいるものの、根治する治療法は確立されていない。HIVはCD4陽性リンパ球に感染し、感染初期には細胞傷害性Tリンパ球(CTL)やNK細胞、ウイルス表面糖タンパク質Envに対する中和抗体による排除を受ける。しかし、増殖に伴ってEnv等の免疫エピトープに変異を蓄積し、免疫系の制御を奪う。他方、近縁のHIV-2感染は臨床症状も軽く、免疫系による制御が勝るため、ほとんどAIDSを発症しない。したがって、HIV-1とHIV-2の感染機構や免疫応答の比較は、細胞性・体液性免疫を統合する免疫応答機構の更なる理解とHIVの免疫逃避に打ち勝つワクチンや抗ウイルス薬の開発につながる、と考えられる。

これまでの経緯と本プロジェクト

我々はこれまで、国際的な創薬人材を教育する目的でOxford大学医学部と大学院生等の相互派遣を独自に進めてきた。本プロジェクトは、これを研究レベルに発展させ、北海道大学が有する創薬に向けた構造生物学・各種のスクリーニング法に、Oxford大の臨床遺伝学・次世代構造解析という異分野の先端技術を結集し、HIV感染機構の理解を多面的に進め、細胞性および液性免疫を活性化するペプチドワクチンや薬物を開発する。同時に、各先端技術に精通した研究者を養成し、その交流を図ることで、免疫と感染の両面から俯瞰的な研究ができる国際ネットワークを構築し、北海道大学をウイルス感染症に対する構造免疫学の創薬拠点にすることが目標である。